日時:2015年 3月14日(土)14:00~17:00
場所:北海道経済センター(8階 Aホール)
北海道札幌市中央区北一条西2丁目(札幌時計台向かい)
定員:200名
【講演1】
『摂食・嚥下障碍に関連するトピックス』
北海道医療大学心理科学部言語聴覚療法学科 教授
木下憲治
【講演2】
『老いても病んでも地域で暮らし続けるために』
~医科と歯科、そして多職種が力を合わせればできること
千葉健愛会理事長 あおぞら診療所院長
川越正平
『寄せられた質問にお答えします!!』
第8弾講師からの回答
―木下先生からの回答―
Q1 「義歯を作製することで咀嚼機能はどの程度改善するのでしょうか?」
健常者では総義歯(総入れ歯)であっても、義歯を入れることにより、歯を失っていない健常者とほぼ同様な食形態を食べることができるようになります。
今回のような脳卒中などで摂食嚥下障害のある患者さんを例とって説明すると、様々要因が絡みますので、個々の患者によってその改善効果は異なるとしか説明できません。
例 えば、脳卒中により(脳卒中を起こすと、すべての患者さんに三叉神経の麻痺が生じるとは限りませんが)三叉神経麻痺が生じている場合には、咀嚼筋機能に障 害が生じています(咀嚼運動障害、咀嚼筋力低下の症状が当然認められます)ので、義歯という「形態」を改善しても、その効果は限られます。ただ、講演会で も説明しましたが、嚥下には下顎の固定が必要で、そのためには咬合の回復が必要ですので、嚥下に対する何らかの効果は期待できます。
質 問の内容からは、少しそれますが、咀嚼機能から嚥下にまで広げて説明させていただくと、嚥下に対する効果は期待できるのですが、義歯を入れて誤嚥が防止で きるとは限りません。咽頭(収縮→咽頭内圧上昇)・喉頭(閉鎖→誤嚥防止)に関する筋群の障害が強ければその直接的な障害が強すぎて、義歯を入れても(口 腔の形態を改善するだけでは)嚥下に対する効果は限られてしまうこともあります。
また、義歯を義歯として認知できない(重度の)認知症の患者さんに、義歯を入れることは義歯の誤飲を引き起こしかねませんので、避けた方がよいでしょう。部分床義歯・下顎の総義歯の誤飲の事故例は多数、発表されています。
Q2 「うがいが出来なくても水分で誤嚥する患者では、吸い飲みなどの水分注入時に嚥下反射が起こり、誤嚥してしまう可能性はないでしょうか?」
ご 指摘の通り、吸い飲みで誤嚥してしまう可能性は否定できませんので、姿勢の工夫により誤嚥を防止する工夫が必要でしょう。座位が取れる場合は誤嚥を最小限 にするために、下を向いてすすぎの水が口の前方に(上顎のすすぎにはシリンジを使用するなどの工夫が必要でしょう)流れるように、水平位では側臥位にして 頬に水が溜まるようにする工夫が必要です。
座位の工夫によっても誤嚥してしまう時は、吸い飲み使用時に吸引もさらに必要になるでしょう。
Q3 「唾液誤嚥を減らす摂食嚥下リハとしてシャキア法など舌骨上筋群の強化以外に有効な訓練があれば教えていただきたい」
嚥下中の誤嚥を防止する方法として、ご指摘の舌骨上筋群の強化(喉頭拳上改善)、声門閉鎖の強化のための「息こらえ嚥下」、「プッシング・プリング訓練」があります。
唾 液誤嚥の厄介なところは、唾液が下咽頭(梨状窩)に貯留していても嚥下反射が惹起されず、口腔から流れてくる唾液が梨状窩に満ちて溢れ出ることにより誤嚥 してしまうことがあります。このような症例では、(食後でなくても)日常的に湿性嗄声が認められます。求心系の神経(咽頭神経叢あるいは舌咽・迷走神経) が障害されているといえますが、このような場合には、嚥下反射が惹起されないために「唾液の誤嚥防止」の方法がないというのが現実で、どの医療現場でも (頻繁な吸引が必要など)苦慮されているのではないでしょうか。
「喉 のアイスマッサージは嚥下反射の惹起に効果はある」といわれていますが、喉のアイスマッサージの直後には強力な嚥下反射惹起効果はありますが、これを行っ ても「その日一日の嚥下反射に効果は続かない」また「長期的な効果はない」ということになっていますので、解決にはならないでしょう。(回答は質問の④に 重複します)
Q4 「のどのアイスマッサージのエビデンスは低いですが、必要なものでしょうか?」
ご指摘の通り、のどのアイスマッサージのエビデンスは低く(のどのアイスマッサージをしても、その日一日の嚥下反射惹起改善の効果が持続するということは ありません)、これを行っても「長期的な効果はない」ということになっています。のどのアイスマッサージは、アイスマッサージ直後の嚥下反射惹起には効果 がありますので、一種の嚥下体操のような効果(準備運動)としてとらえればよいのではないでしょうか。エビデンスは低いので「行わない」という選択もあり 得ると思います。
Q5 「寝たきりで胃瘻や経管で栄養摂取している患者がいてうがいを促しても水という認識がなく口腔ケアはブラッシングとガーゼでの拭き取り後に口腔湿潤ジェルを使用していますが他に安全な口腔ケアの方法はありますか?」
胃 瘻や経管で栄養を摂取しているということですので、すすぎ(うがい)に使用する水も誤嚥してしまうという前提で、説明させていただきますが、「ブラシング 後のガーゼのふき取り」ということですが、ガーゼによるふき取りは、すすぎに代わる一つの方法ですが、口腔ケアにより歯や粘膜からそぎ落とした細菌の回収 手段としては、水によるすすぎ(と回収)には劣るようです。ただ、下記に述べるように現実的にはこの方法を取らざるを得ないこともあります。水を使用する と誤嚥の可能性が高くなるため、理想的には、姿勢(座位で下向き、あるいは側臥位)の工夫のよりすすぎ(このような姿勢をとっても誤嚥の可能性がある時に は誤嚥防止のために(吸引器による)吸引が必要です)をするという方法がありますが、上記の方法を人的・時間的制約があるためにできない場合には、ガーゼ でふき取らざるを得ないということもあると思います(効果に関しては、すすぎよりは劣るということを常に認識する必要はあります)。
口腔乾燥がみられる方に口腔湿潤ジェルを使用することは大変良いことです。
Q6 「口腔ケアのタイミングはいつが良いのでしょうか?汚れた口腔内の状態で食事をすると細菌ごと飲み込むのでは?しかし食後にしなければ食物残渣をきれいにできません・・・」
ご 指摘の通り、タイミングは難しいと思います。「汚れた口腔内の状態で食事をする」ことを避けるために食べる前に口腔ケアを実施する必要はあり、すっきりし たお口で食べた方が良いのですが、食後の食べ残しの除去のために、口腔ケアを食後もしなければなりません。理想的には、食前食後の口腔ケア が望ましいといえますが、現実的に、食の前後に実施するのはケアスタッフの不足から不可能ということも多いでしょう。そうすると、「食前食後のどちらにす べきか?」ということになりますが、「食後に口腔ケアをしっかりと行う」のが実際的ではないでしょうか。食べる前にいくらきれいにしても、食後に食物残渣 があっては、短時間にケア前の環境に戻ってしまうことになりかねず、食前の口腔ケアの意味がなくなってしまいます。
可能な限り、口腔エアでは歯や粘膜からそぎ落とした細菌の除去のために、誤嚥しない姿勢ですすぎを行うことを基本としてください。